ラマダン期間中のイスラム教国家を旅行
東南アジアにはイスラム教国家が3つあるのをご存知ですか?
マレーシア、インドネシア、ブルネイの3カ国です。タイの南部などイスラム教徒が多い地域もありますが、イスラム教を国教と定め、国民の過半数以上がイスラム教徒で構成されている国は、東南アジアではこの3カ国です。
図らずもボクは2017年のラマダン期間1ヶ月間、この3カ国を旅行しました!
今回は、旅行者にとってラマダン期間中のイスラム教国家って実際どうなのか?自分の実体験ベースで、この東南アジアのイスラム3カ国を比較しました!
先に身もフタもない結論を言ってしまうと、ラマダン期間中にイスラム教国家を旅行する事はオススメしません。それでもどうしてもこの時期にしか旅行できないとか、知らずに旅行計画を立ててしまったとか、仕事でやむを得ないなどの理由でラマダン中のイスラム教国家を訪問する人は、ぜひこの記事を参考にして頂ければと思います。
そもそもラマダンとは?またその時期は?
ラマダンとは「断食月」の事です。簡単にまとめると以下の通り。
- イスラム教では毎年1回ラマダンがある
- ラマダンの期間は30日
- 太陰暦によって決まるが、最終的な日程決定は政府が発表
- 時期は毎年11日ずつ程度ズレて行く(2016年は6月6日、2017年は5月27日から)
- ラマダン期間中、日が出ている間は一切の飲食禁止
- 日の出前、日没後は飲食OK
- 飲食禁止と言うのは、食事はもちろん水、タバコも禁止。唾を飲み込むのも禁止
- ラマダンは旅行者には適用されない他、断食によって健康を害する恐れのある人(子供、老人、病人、妊婦など)は免除される
と言うのがラマダンです(宗教的にいろいろ意味もありますが、ボクが語るものではないので省きます)。ラマダンについては検索するといろんなページが出てきますし、知識としてもともとご存知の方も多いと思います。
しかし旅行者が気になるのは実際の所どんな雰囲気なの?って事ですよね。
外務省などでは「近年,ラマダン期間中に多数のテロが発生しています。」とラマダン月のテロについての注意喚起を近年は毎年発表しています。
日本人的には「ラマダン中=ちょーあぶない」ってイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
また、ラマダンの厄介な特徴の1つとして「時期は毎年11日ずつ程度ズレて行く」というものがあります。これは要するに、2020年、2021年、2022年は日本のゴールデンウィークとラマダンが丸被りすると言う事です(時期の最終決定は政府なので、多少前後する可能性あり)。
ゴールデンウィークともなると、ボクみたいにうっかりラマダン期間中に旅行に行ってしまう日本人が続出しそうですね!
そういううっかり者の不安を取り除くため、また迂闊なマナー違反などをしないために、この記事をまとめようと思った次第です。
マレーシアのラマダン
ボクが滞在した都市
非ラマダン期間:クアラルンプール、マラッカ、ジョホール・バル、ジェラントゥット、クアラ・タハンラマダン期間:ビントゥル、クチン
マレーシアの宗教概要
イスラム教を国教とし、国民の61%をイスラム教徒が占めています。他は多い順に仏教徒20%、キリスト教9%、ヒンドゥー教6%。他の2国と比較するとイスラム教徒の占める割合は最も低いです。これは中国系やインド系の民族が多く、この2民族で国民の1/3を占めているため。
日中の飲食店の状況
飲食店は日中でも半分程度は開いており、普通に食事が可能です。開いているのは主に華僑が経営する中国系飲食店や、チャイナタウンの飲食店、外国系のチェーン店などです。一部、中国系でない食堂も開いてはいますが少ないです。
宗教に対する慎重さの違いなのか、インド系の店は日中閉まっている所が多いように思います。
地元民の様子
良くも悪くもゴーイングマイウェイな中国系の地元民は、ラマダンを全く意に介していない様子で、歩道やオープンなフードコートで食事やお茶をしながら談笑しています。
数は少ないですが、ヒジャブ(女性ムスリムが着用する頭巾)をかぶった女性が、飲み物を購入して飲んでいる姿を見かける事もあります。
旅行者はどう振る舞えばいいのか
日の出後の朝食や昼食は、中国系のお店で取るのが無難でしょう。日本人は見事に紛れてしまいます。マレーシアでも中国系は豚肉が大好き(イスラム教では豚は不浄なので食べない)なので、中国系のお店にムスリムは入りません。気兼ねなく食事ができます。(まれに豚肉不使用とハラルを掲げる店もありますが・・・)
フードコートなどでも、周りを見て食事をしている人が多ければ、普通に食事をしても目立つ事はありません。
マレーシアは他2国に比べると、そこまで気を遣わずに過ごす事ができます。とは言え、食べ歩きやモスク周囲での飲食はさすがにやめましょう。常に周囲を観察して、地元民から浮いた行動を取らなければ問題無いと思います。
インドネシアのラマダン
ボクが滞在した都市
非ラマダン期間:ジャカルタ、ジョグジャカルタ(ジョグジャカルタでラマダン開始を迎えた)ラマダン期間:ジョグジャカルタ、スラバヤ、マカッサル、アンボン、バリ
インドネシアの宗教概要
国民の87%をイスラム教徒が占めています。他はキリスト教10%、ヒンドゥー教1.7%、仏教含めその他はそれぞれ1%以下です。
日中の飲食店の状況
飲食店は日中でも3割程度は開いており、食事が可能です。開いていると言っても開いているすべての飲食店は、扉やシャッターを半開きにしたり、簡易間仕切りなどで目隠しし、往来から店内の様子が見えないようになっています。
なお、バリ島は島民の大半がバリ・ヒンドゥー教徒である事と、外国人旅行者が多い事から、飲食店はほぼ通常通り営業していますし、目隠しもありません。
また、アンボン中心部では他のインドネシアの都市と同じく、飲食店はこっそり営業ですが、キリスト教徒の多い地区では通常営業していました。インドネシアは島や地域よる違いが大きい印象でした。
ローカルな市場では、飲食系屋台の半分以上がお休みしていますが、ボロブドゥール遺跡等の大きい観光地前にある屋台なんかは通常営業です。
地元民の様子
大手を振って飲食する人は圧倒的に少ないですが、ひっそり飲食する人は結構多く、お昼時にローカル食堂に入ると満席近い時もあります。客は老若男女様々。
新しいショッピングセンターなどでは、1階の目立つところにあるレストランには人っこ1人いなくても、最上階のフードコートでは割と普通に飲食している人がいたりします。
↑誰もいない1階のレストランと、↓最上階のフードコート。どちらもスラバヤの某ショッピングセンターにて。
一方でまじめに断食していそうな人も多く、午後になると市場や路上で力尽きてぐったりしている人もよく見かけます。
また、夕方から甘味やお菓子系の屋台が一気に出始め、食事系のお店が一気にオープンする日暮れ時になると、飲食店は家族連れでにぎわい大通りはちょっとしたお祭り騒ぎになります。
旅行者はどう振る舞えばいいのか
営業する店の数が激減はするので、元から飲食店が少ない地域に滞在すると食事に苦労します。できるだけ飲食店の多い地域に滞在しましょう。
屋台の多くがムスリム向けに早朝営業し、日の出と同時に終了してしまうので、朝飯が一番苦労します。幸いインドネシアは安宿でも朝食付きの宿が多いので、できれば朝食付き宿に泊まるのが良いでしょう。
日中は普通のローカル食堂がちらほら営業しているので、選択肢は少ないですが昼飯はさほど苦労しません。しかし、店内の様子がさっぱりわからない為なんの飲食店かがよくわからず、入ってみたら食べたかったものとちょっと系統が違うと言う事はちょいちょいあります。
インドネシアではラマダン中でも食事に困る事はありませんが、「人目につく場所での飲食はマナー違反」という共通認識はひしひしと感じます。地元民にならい、人目を避けて飲食しましょう。また、日暮れ後は非ラマダン期間に見かけない屋台も出回ります。こちらも地元民にならい、日暮れ後はがっつり楽しみましょう。
ブルネイ・ダルサラーム王国のラマダン
ボクが滞在した都市
非ラマダン期間:なしラマダン期間:バンダル・スリブガワン
ブルネイ・ダルサラーム王国の宗教概要
国民の79%をイスラム教徒が占めています。他は多い順に仏教8.7%、キリスト教7.8%です。
日中の飲食店の状況
飲食店は2~3割程度が営業しています。飲食店が集まる地域は閉め切ったシャッターが並びます。また、営業している数少ない飲食店も、イートインは一切禁止、テイクアウトのみOKと言う状態です。これは外国系のチェーン店や、今風のカフェでも同様で、飲食店内での飲食は一切できません。
また、ほとんどの店がラマダン・ビジネスアワーを別途定めており、営業時間が変則的になります。店によって営業時間は様々ですが、イスラム教の礼拝日に当たる金曜日の正午前後から2,3時間は、ほぼ全ての飲食店が休業してしまいます。
地元民の様子
飲食店での食事が不可能なため、食事をとっている人はほとんど見かけません。市場の飲食スペースでは水を飲んでいる人すらいません。しかし、昼時にはテイクアウト営業のローカル食堂にぼちぼち人が並んでいるのを見る限り、自宅や屋内で食事をとる人は一定数いるようです。
また、新しいショッピングセンターのちょっと物陰にあるベンチなどでは、十代くらいの若い子がジュースを飲んでいる姿を見かけました。
旅行者はどう振る舞えばいいのか
日中は、必ず宿で食事をとりましょう。
ブルネイの首都であるバンダルスリブガワン中心部にいる限りは食事に困る事はありませんが、ちょっと郊外に行くと日中営業している飲食店はほぼ無くなります。田舎に滞在してしまうと、おそらくかなり不便です。
また、食べ物とは関係ありませんが、カフェに滞在できないため宿のWi-Fiが非常に重要になります。うっかりWi-Fiの無い宿に泊まってしまったボクは、日中一切ネットが使えないというネット断食状態になってしまい、大変ツラかったです。
終わってもめんどくさい!ラマダン明けの大混雑
ボクは実際にはラマダン明け4日前にタイへ脱出したので、実際のラマダン明けは見ていませんが、在住者のブログから拾った情報や、現地のローカルガイドに聞いた話を簡単に書きます。
国によって名称は違いますが、ラマダン明けは祭りになります。この断食明けは、マレーシアやブルネイでは「ハリラヤ」」インドネシアでは「レバラン」と呼ばれ、ラマダン明け2日間お祭り騒ぎをした後、国民の大半が1~2週間の長期休暇に入ります。ムスリムにとっては年末年始より大規模で重要なのが、このラマダン明け休暇だそうで、ほとんどの人が仕事を休んで実家に帰ってしまうとの事。
そのため、特に人口の多いインドネシアなんかでは陸海空の交通網が完全にパンクするし、都市部では働く人がいないため商店や飲食店はほとんどが休業。旅行者にとってこの上なく過ごしにくい状態になるわけです。
長期旅行者や滞在者も、あまりにも不便なのでこのラマダン明けの時期は他国へ避難したりするそうです。
避難する滞在者が多いのか、ボクは6月21日にマレーシアからタイへ行く航空券を買いましたが、料金比較をすると翌日の22日は料金は約20%アップ、翌々日の23日以降は一気に2倍以上の金額になっていました。※2017年のラマダン明けは6月25日。
実際ラマダン中に旅行した感想
ハッキリ言って、ものすごく損した気分ですw
都市によっても違いますが、特にブルネイは街の活気はおそらく半減どころのレベルではなく、どこもシャッターが閉まっていてものすごく寂しかったです。
インドネシアではドアが半開きの薄暗い食堂で静かに食事する羽目になりますし、マレーシアは文化や食事の多様さが魅力なのに日中は華僑の中で中国系の食事ばっかりとる羽目になります。
レストランなどでラマダン中限定の「ラマダンビュッフェ」なるものが開催されたり、イスラム教国家のラマダン前後の違いを観察できたりと興味深い面もありますが、楽しめるのはせいぜい最初の2,3日です。それ以降は退屈さともの寂しさ、飲食時いちいち人目を気にする煩わしさが勝って来ます。
悪い事は言いません。ラマダン中にイスラム教国家を旅行するのはマジでオススメしません。
東南アジアのラマダンまとめ
- ラマダン中の旅行は十分可能
- ただしおすすめはしない
- 形態に差はあれど旅行者の飲食は可能
- ただし周囲をよく見て行動するように
東南アジアのラマダン中は、全体的に中東ほど厳格ではなく、外国人が食べる所を見つかって強制送還というような事には、そうそうならないと思います(多分)。ボクが訪問した範囲のインドネシアやマレーシアの都市では飲食している地元民も多かったので、紛れたり隠れたりしながら飲食は十分可能でした。
また、一般人が殺気立っているとか、治安が悪化すると言うような変化は一切見られませんでした。(治安の良し悪しとテロはあまり関係ありませんが)
断食の厳格さは、同じ国でも街や島によって違い、また同じ街でも区域によってかなり差があります。
やはり誰も飲食していないような場所で無頓着に飲食するというのはマナー違反にあたります。行く先々の土地の、宗教や文化を尊重するのが旅行者の義務です。断食と言う行為に対する敬意を常に持ってマナー違反にならないよう注意しつつ、旅行もしっかり楽しんで下さい。
コメント
ラマダンの実態がよく判りました。
>>y.kujime さん
レポートも読んで下さってるんですね!ありがとうございます^^